ユキちゃんという女の子がいました。
ユキちゃんは、犬が大好きでした。
両親がユキちゃんの為にと、知り合いから犬をもらってきました。
名前は、タロウでした。
ユキちゃんは、嬉しくて嬉しくて、仕方ありませんでした。
散歩の係りは、いつもユキちゃんでした。
でも、ユキちゃんは、ちっちゃいから、タロウに引きづり回されます。
それでもユキちゃんは、タロウの散歩をやめませんでした。
タロウは、そんなユキちゃんが、大好きでした。
ただ、そんなユキちゃんにタロウは、秘密を持っていました。
タロウは、気に入ったものを隠すという、特技がありました。
ユキちゃんのスリッパに、大好きな人参に、大好きなご飯が入っている鍋にと。
毎回、穴を掘っては隠し、タロウの秘密でした。
ところが、ある時、ユキちゃんに見つかってしまいました。
「こら、タロウ」
ユキちゃんが、見つけた人参で頭をゴツン。
見つけた鍋でゴツン。
その度に、タロウは、「キャンッ。」と鳴きます。
そして、申し訳なさそうに、前足をジタバタさせます。
そんなタロウをユキちゃんは、大好きでした。
タロウは、お風呂が大好きでした。
お風呂に入って、キレイにしてもらうと、家の中へと入ることを許してもらえるからです。
タロウは、嬉しくて、部屋中を、かけり回ります。
家族のみんなは、そんなタロウが可愛くて仕方ありませんでした。
ところが、別れは突然やってきました。
タロウがユキちゃんと散歩をしていると、よその家の犬にタロウは、耳をかじられました。
ユキちゃんは、すぐ、病院に連れて行きました。
タロウはぐったりしていました。ユキちゃんの呼ぶ声にも、反応がありません。
ユキちゃんは、思わず、大声で泣き出しました。
先生は、慌ててユキちゃんをなだめました。
ユキちゃんは、「タロウが死んじゃう。タロウが死んじゃう。」病院中を、泣きながら、かけ回りました。
先生はユキちゃんに言いました。
「タロウが心配するよ。泣いてたら、タロウが悲しむよ。
もし、タロウが死んじゃっても、ユキちゃんの泣く顔は見たくないはずだよ。」
ユキちゃんは、ウルウルした瞳で聞きました。
「タロウは、死んじゃうの?本当に、いなくなっちゃうの?」
ユキちゃんは、ポロポロ涙を流しました。
「ユキちゃん、タロウは、死んじゃうかもしれないけど、ユキちゃんの胸はタロウでいっぱいでしょ?
タロウが、ユキちゃんの胸の中で生き続けるんだよ。それでもさみしい?」
先生は、ユキちゃんの頭をなでながら、言いました。
「さみしい。さみしいよぉ。」
ユキちゃんは、また、大声で泣きました。
先生は、部屋から、カメラを持ってきました。
そのカメラで、タロウを撮り始めました。
そして、病院から、どこかへ出かけました。
ユキちゃんは、不安で仕方ありませんでした。
するとすぐ、先生は帰ってきました。
そして、ユキちゃんに、袋に入った人参と、封筒を渡しました。
「タロウの大好物でしょ?もし、これで最後なら、ユキちゃんの手であげるといいよ。」
そうして人参を渡されたユキちゃんは、タロウの側に、走っていきました。
タロウに、人参を見せてやると、タロウは、しっぽを振りました。
ユキちゃんは、大喜びしました。
ユキちゃんは、先生から渡された封筒を落としました。
すると、その中に、タロウが写った写真があふれていました。
そして、手紙が入っていました。
(ユキちゃんへ)
タロウが、いつか死んでしまっても、ユキちゃんの胸の中にも、この写真の中にも、タロウが生き続けてると思ってくれるかな?
先生と約束してくれないか?
タロウが死んでしまっても、悲しまないと、泣かないと。
タロウは、ユキちゃんに、笑っていてほしいと思うから。
その手紙を読んで、ユキちゃんは、先生に、抱きつきました。