晩に、海を見に来るのが好きな男がいました。
毎晩、毎晩、ただじっと、海を眺めていました。
その姿をカゲで見ている人魚姫がいました。
2人は恋に落ち、男は人魚姫に、いろんな物語を聞かせてやりました。
人魚姫は、月の神様に願いました。
『どうか、私を人間にして下さいと…』月の神様は答えました。
『人間にはしてやれるが、そのあとお前は、クジラにされるであろう…。それでもいいか?』
『はい。』人魚姫は、男の元へ走っていきました。
1人娘に恵まれ、幸せな日々が続いて2年後、大雨で、家が崩れさりました。
人魚姫は、時がきたのだと悟りました。
男と、1人娘のルナに手紙を書き残して、その場から消え去りました。
それから毎晩、男はまた、海へ通うようになりました。
クジラになったママに逢う為です。
クジラは、パパを見ると、何度も何度もジャンプして姿を見せました。
でも、その度に傷だらけになります。
それでも、クジラはジャンプします。
愛する男の為に…。
そんな生活を暮らしてから少しして、クジラは亡くなりました。
海に打ち上げられたクジラは、傷だらけでした。
男は、クジラを抱きしめ、涙を流しそして、海に返してやりました。
それから15年の月日が経ちました。
『パパ、助けて、背中が痛い。』
ルナの声に男は階段をかけのぼり、部屋へ行きしゃがみ込みました。
ルナの背中には、人魚のウロコがびっしりと、キラキラ光っていました。
『神よ、私から愛するもの全て奪うんだな。』
男はルナを海に連れて行き、ママが着たウエディングドレスと一緒に流しました。
ルナは喜んで、何度も何度もジャンプして、男に顔を見せてくれました。
ルナも、ママのように人間に恋するのでしょうか?
この作品は、約10年前、イラストを添えてロッツのB1で展示させてもらいました。今は亡き、吉原由美さんが雨の中、足を運んで見に来てくれた思い出の作品です。感想に、せつなかったけど、心がなごみました。と、残していってくれました。