会社の中にあるパン屋さんは、営業をやめることにしました。
会社のチャイムが鳴ります。
マイクの音から、誰かのすすり泣きが聞こえます。
パン屋の店員の鈴子さんです。
鈴子さんは、1番古いベテランです。
この店をとても気に入ってくれていました。
アナウンスの時間でした。
鈴子さんが代表で、パン屋をやめる放送をすることになったのです。
今までの時間が懐かしく思い出されました。
鈴子さんが思わず、涙しました。
みんなを送って帰る車の中、『まだ、続けることは出来ないでしょうか?』
鈴子さんに、友子さんに、勇気くんに、健太くんから、次々と発言がありました。
店長は、困ってました。やめる訳がありました。
それは、若い店員、優美さんも知っていました。
『キャア~。今、4人いましたよね?顔がなかったよ。』
優美さんが店長に言いました。
優美さんは、顔を手でおおいました。
店長は、みんなに言いました。
『最近、猫を車ではねて以来、オバケを見て、苦しめられているんだ。
優美さんも、偶然、私と同じものを見る。みんなは見ないかい?』
深いため息まじりでした。
鈴子さんは言いました。
『優美さんも見えるなら、オバケは猫のせいではないわ。ただのイタズラよ。』
でも、店長は首をたてに振りません。
『オバケを見ると、仕事が手につかないんだ。』
店長の初めての悩みでした。
『私も見たいわ。』友子さんが言いました。
それにつられて、勇気くんと健太くんまで…。みんな、肝がすわってます。『それじゃあ…。』優美さんが言いました『みんなで、オバケを見ましょうか?みんなで、オバケを呼びましょうか?
店長、オバケをこっちから、誘いましょうよ?』
優美さんをはじめ、みんなの心強い気持ちに、店長もやる気になりました。
『オバケのパン屋でも作ろうか?』早速、試作品のできあがり。
名づけて、オバケパン。
オバケの顔をユニークにアレンジをしたものでした。
優美さんのアイデアでした。
『こんなオバケなら、怖くないわ。』
そう、楽しそうに笑いました。店長も、みんなも、楽しそうでした。
『明日のアナウンスは、楽しみだわ。』
鈴子さんは、ワクワクしていました。
『ピンポンパンポーン。今までのパン屋はやめて、
新しくオバケのパン屋を始めることにしました。オバケを見たい人、是非、ご来店を。』
鈴子さんは、力が入ります。
『いらっしゃいませ。オバケのパン屋、オープンです。』
今までのなじみの客も、好奇心でやってくる客も、
みんなで店内は、ぎゅうぎゅうづめでした。