ある町に、働き者のアリがいました。

アリは、せっせと石を転がして、家作りをしていました。

そこへ、アゲハ蝶がやってきました。

『アリさん、アリさん。私を助けて。』

 

アリは、アゲハ蝶を急いで、家のどうくつへ案内しました。

もう少しで、クモに食べられてしまうところでした。

アゲハ蝶が言いました。

『アリさんは、いいわねえ。誰からも、嫌われてないから。』

アリは言いました。

『そんなことないよ。人間には、踏みつぶされそうになるし、クモにも食べられそうになるし、カエルだって僕を狙ってる。

君は、飛んで逃げられるからいいよ。僕は、歩くことしか出来ない。』

アリは、アゲハ蝶を羨ましそうに言いました。

『飛べたって、意味ないわ。私の後をツバメが追ってくるもの。』

アゲハ蝶は、自由ではない暮らしに疲れていました。

『君が気が晴れるまで、僕の家でゆっくり休んでいってもいいよ。

砂糖水なら倉庫にいくらでもあるよ。君も好きかい?』

砂糖はアリの大好物でした。

『もちろん。私も大好きよ。』

アゲハ蝶は、嬉しそうに答えました。

地を生きていくアリと、空を生きていくアゲハ蝶の共同生活が始まりました。

朝早く、アゲハ蝶は、花畑でミツを取って帰ってきました。

これにはアリも、大喜びでした。

『これって、ハチミツかい?』アリが聞きました。

『違うわよ。レンゲのミツよ。甘いでしょ?

でも、本当のハチミツはもっと甘いのよ。』

アゲハ蝶は、誇らし気でした。

アリは、そんなアゲハ蝶が、羨ましくて仕方ありませんでした。

『君は、いいな。世界中をひとっ飛びできて。

僕は、果てしなく歩き疲れてしまうよ。

僕の仲間で、世界に行ったなんて聞いたことないよ。』

アゲハ蝶は、アリのそんな言葉に、声が出ませんでした。

少しして、アゲハ蝶は、声を出しました。

『そうよ。そんなに世界に行きたいなら、私の背中に乗ったらどう?今まで、見たことのない景色が見れるわよ。

空って、高いのよ。人間だって、豆つぶに見えるのよ。』

 

アゲハ蝶の提案に、アリはなんだか、興奮してきました。

『いいねえ。ワクワクするよ。君といたら、僕の世界が、だんだん変わってしまうよ。小さい頃に夢見た、冒険が出来そうだ。』

アリは、本当に興奮していました。

目がキラキラと輝いていました。

『きっといつか、冒険の旅に出てみましょう?私も、1人ぼっちじゃないから楽しいわ。』

夢を語り合ってるうちに、夜になりました。アリとアゲハ蝶は、それからずっと、満月をただじっと、眺めていました。

果てしない夢を見つめて‥。