ある森の奥に、人間の仕掛けたワナに捕まったキツネが1匹おりました。

キツネは、片足をワナで挟まれて、そこから動くことが出来ませんでした。

キツネは、どうしてもそこから動かなければいけない理由がありました。

子供たちが待つ、母キツネでした。

自分のことより、子供たちが心配でなりませんでした。

 

心配して、そわそわしている時、女の子の泣き声が聞こえました。

泣き声というより、泣きながら、何かにうったえる声でした。

そおっと身体を動かし、声のしている方を見てみると、大きな樹に、泣きながら、うったえている女の子がいました。

『樹の神様、あなたには産まれた時から、周りに友達の木がたくさんいるでしょ?

なのに、なんで私には友達の1人もいないの?

こんなの嫌よ

私が何をしたっていうの?

私は、小さなアリさんも殺したことはないわ。

キレイな蝶々さんだって、無理矢理つかまえたことはないわ。

大人の人達は、樹の神様の仲間の木を切り倒して殺す時もあるでしょ?

私は樹の神様の仲間の木にだって、イジワルしたことはないわ。

何か、魔法は使えないの?

あなたは樹の神様でしょ?

なんだって出来るでしょ?』

母キツネは、なんとも可愛らしい女の子のうったえを、静かに聞いていました。

いつの間にか、自分の子供たちを、その女の子に照らし合せていました。

母キツネは、ニッコリ『フフフッ。』と、笑いました。

『誰?誰かいるの?』女の子は、さわぎたてました。

そして、母キツネを見つけました。

『あら、大変。助けてあげなくっちゃ。』

女の子は、小さな手でワナを力いっぱい開こうとしましたが、その度に、『ウッ。』と、母キツネは痛がりました。

『ちょっと、待ってて。すぐ帰ってくるわ。』

そう言って、女の子は走って行きました。

女の子がいなくなって、母キツネは、樹の神様に話しかけました。

『大変、可愛らしい女の子ですね。

どうやって、あの子の頼みごとを叶えてあげるつもりですかな?』

樹の神様は、深くため息をつきました。

『私には、魔法が使えないのでなあ…。』

樹の神様は、困り果てました。

すると、母キツネは、

『私が、こたえてあげましょうか?もし、無事に子供たちの元に帰れたら…。私の先祖に頼んで魔法を使いましょう。』

『そうしてくれると、ありがたい。あの子は、私の元に毎日やってくるんでな。願いを叶えるまで来るつもりらしい。どうしてやることも、できんでな。』

また、『フゥーッ。』と、深いため息をつきました。

そうしていると、『キツネさーん。』女の子の声が聞こえました。

母キツネの元に、さっきの女の子が走ってきました。

どこかの、おじいさんを連れて…。

『おおー。こりゃ、痛かろう。』おじいさんが、キツネに言いました。

『大丈夫じゃ。すぐ助けてやる。』

そう言って、ペンチでワナをまっぷたつにしてくれ、母キツネは助かりました。

母キツネは、足を引きずりながら、何度も何度も、頭を下げながら、子供たちが待つ場所へと向かいました。

『ああー、よかった。おじいさん、ありがとう。』

女の子は、ホッと安心していました。

『おじいさん、これが私の樹の神様よ。』

女の子は、誇らしげに、おじいさんに紹介しました。

『ほぉー。すごいのぉ。』

おじいさんは、ニンマリ笑いました。

そして、『あんまり、無理なことは言っちゃいかんよ。樹の神様とて、困ろうじゃ。』

おじいさんは、女の子の頭を軽くなでました。

『嫌️私、どうしても友達がほしいもの。』

女の子は、おじいさんに駄々をこねました。

『困ったもんじゃのぉ。ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ。』

おじいさんは、笑いました。

女の子は、毎日のように、樹の神様のところへ行くのですが、これには樹の神様も、困り果てました。

ある日、樹の神様のところへ、この前の母キツネがやってきました。

おじいさんと女の子のお陰で助かり、感謝していると言いました。

そのお礼がしたいと、言いました。

樹の神様に、母キツネの方から言い出しました。

『あの女の子に、友達を作ってやればいいのでしょう?

先祖様の魔法で、私の子供たちを人間にばけさせます。

そして、女の子の遊び相手をしてやればいいのでしょう?

それなら簡単なことですよ。』

それを聞いた、樹の神様はホッとしていました。

そして、嬉しそうに笑いました。

『あのおてんば娘に、遊び相手が出来るじゃろうか?』

そう言って、また笑いましに。

母キツネも、『私の子供たちが、うまくやってくれるでしょう。』と、笑いました。

ちょうどそこへ、女の子がやってきました。

母キツネを見ると、女の子はすぐさま、抱きつきました。

『生きててよかった。心配してたのよ。』

怒った風に言いました。

母キツネは、女の子に『明日、ここへあなたの友達を連れてきてあげるわ。』そう言いました。

女の子は、また母キツネに抱きつきました。

『本当に?本当なのね。どうしよう。嬉しくて今日は、眠れないわ。私、どうしたらいいの?』

樹の神様と母キツネは、クスクス笑いました。

女の子は嬉しそうに、走って行きました。

翌日、樹の神様の前に、4人の女の子達が立っていました。そうです。

キツネの子供たちです。

魔法で、人間に変身したのです。

そこへ、いつものように、女の子がやってきました。

女の子は、4人の女の子達を見て喜びました。

『あなた達が、私の友達になってくれるの?』女の子は言いました。

4人の女の子達は、口をそろえて、『もちろんよ。』と、答えました。

女の子は樹の神様に、抱きつきました。『ありがとう。私のたったひとつの願いを聞いてくれて。』そう言って、涙をふきました。

女の子と、キツネの子供たちは、仲良く森で遊びました。

 

キツネの子供たちが帰る時、女の子は、子供たちに袋を渡しました。

『また、来てね。』と、ギュッと、手を握って。

キツネの子供たちは、母キツネに袋を渡しました。

母キツネがよく見てみると、袋の中にはシップが入っていました。

そして、メモ紙が入っていました。(早く、足を治してね。本当にありがとう。)と…。

 

次の朝、母キツネは樹の神様のところへ行きました。

そして、女の子が気づいていた事情を話しました。

樹の神様は、うなずきました。それから女の子は、樹の神様の前へ現れなくなりました。

女の子の願いが叶ったからでしょうか?

あなたの前に現れた時は、ギュッと、抱きしめてあげて下さい。

とっても優しくて、とってもさみしがりやの、女の子だからです。