ものごころついた時から、病室で毎日、過ごしている少女がいました。
少女はいつも、頭の上にある窓ガラスから、外ばかり眺めていました。
いつになったら、外へ出られるの?
いつになったら、外で遊べるの?
誰も答えてくれません。
まだ、だめよ。
と、首を横に振るだけです。
少女は、友達もいませんでした。
いつも、1人っきりでした。
少女は、先生に、ノートとボールペンをねだりました。
少女の、初めてゆるされた願いでした。
少女は、ノートに書きました。
神社におられる狛犬様。
私の願いを聞いて下さいませ。
たった1日でいいから、外へ私を連れ出して下さいませ。
たった1日でもいいから、外の世界を見てみたい。
思いっきり、遊んでみたい。
狛犬様なら、私の願いをきっと、聞いて下さる事でしょう。
そう書いて、破った紙で飛行機を作りました。
紙飛行機に、願いを乗せて、狛犬様のところへと、
そう願い、風に乗せて紙飛行機を飛ばしました。
紙飛行機は、遠くへ飛んでいきました。
少女の見えないところへ、飛んでいきました。
その夜、少女は夢を見ました。
狛犬様が出てきました。
そして、少女についてきなさいと、呼んでいました。
少女は、ついて行きました。
着いた場所は、どこかの原っぱでした。
シロツメクサに、レンゲに、タンポポに、クローバーに、
花だらけの、原っぱでした。
『きれい。』少女は、すぐに気に入りました。
狛犬様は、言いました。
『帰りたい時は、私を呼びなさい。
それまでは、自由に、好きなだけ遊びなさい。』
少女は、うなずきました。
原っぱには、少女と同じ年頃の子が、何人もいました。
少女に初めて、友達が出来ました。
少女は、楽しくて仕方ありませんでした。
少女が楽しんでいる間、不思議なことが起きていました。
少女は、呼吸をしていない状態におちいっていました。
何故でしょう?
少女は、こん睡状態になっていました。
先生も、大人達も、困っていました。
もう、あきらめかけた時、少女は、瞳をあけました。
『あぁ、楽しかった。私はもう、1人ぼっちじゃないわ。』
そう、言いました。
先生も、大人達も、安心しました。
もう、狛犬様を呼ぶ事は、ないでしょう。
11/6姫路にて。