黒髪の少女ナーシャは、あるおじいさんとおばあさんの家へ、捨てられていました。

物心がついた頃から、おじいさんとおばあさんが、親がわりでした。

ナーシャは、腕に火傷の痕がありました。

おじいさんとおばあさんは、それが不憫でなりませんでした。

『お嫁に行けるかのぉ?』

それが心配でした。

ナーシャは、ある時、捨て犬に出会いました。

友達のいなかったナーシャは、すぐ抱いて家に連れて帰りました。

おじいさんとおばあさんは、すぐに許してくれました。

ナーシャは、捨て犬に、ロンと名付けました。

ロンは、ナーシャと遊ぶのが大好きでした。

いつも、ナーシャと一緒の布団で寝ていました。

10年の月日が流れて、おじいさんもおばあさんも亡くなり、ナーシャはロンと旅をしました。

ナーシャは、お店の皿洗いを手伝って、食べ物をもらっていました。

ある時、ロンが、1台の車を目にした途端、走り出しました。

その車の持ち主は、ロンを捨てた飼い主でした。

ロンは、懐かしくてたまりませんでした。

ドア越しに、飼い主をじっと見つめていました。

飼い主も、気づきました。

そして、そっとドアを開けたのです。

ロンは、振り返り、ナーシャを見つめました。

ナーシャは、気付いて、そっと頷きました。

ロンは、車の中へ入っていきました。

飼い主も、ナーシャに頭を下げました。

ナーシャは、ひとりぼっちになりました。

ナーシャの心を知ってか、大雨が降り出しました。

びしょ濡れになったナーシャを、家へよんでくれた夫婦がいました。

そこで、服を脱いだナーシャに、夫人は抱きつきました。

『あなただったの?』夫人は、涙を流しました。

そうです。ナーシャを捨てた母親だったのです。

母親は、火傷の痕を、いつの日も覚えていました。

ナーシャは、自分を捨てた親を恨んではいませんでした。

『私に、気付いてくれてありがとう。』そう言って、母親に抱きつきました。

ナーシャも、ロンも、それぞれの幸せを見つけることが出来ました。

きっと、神様のしわざでしょう。