着る服も、食べる物も、
歩く為の靴もない男がいました。
たった1人で歩いていると、
野良犬が、どこかからか、靴をくわえてきました。
そして、どさっと、男の前に置きました。
男は、その靴をはき、また道を歩いていると、
小さな女の子が、食べ物を差出しました。
男はそれを、ありがたくもらいました。
そして、また歩いていると、
どこかのおばあさんがピカピカに輝いている絹の糸であしらった服を持ってきました。
そして、男の手へ渡しました。
男は、自分が何故、こんなに優しくされるのか分かりませんでした。
そして、その服を着て歩くと、皆んながおじぎをするのです。
男は、そこにいる女に尋ねました。
すると、宮殿を指しました。
男は、宮殿へ歩いて行きました。
すると、驚きました。
男と、宮殿にある男の肖像画が、そっくりでした。
これはどういうことでしょう。
中から、皆んながやってきました。
そして、男の身体を抱きしめました。
肖像画は、男の双子の兄でした。
ちょうど、昨日、亡くなったのです。
男の母親も出てきました。
『ごめんなさい。男の子が二人いると、そのどちらかが、殺されるかもしれないと、あなたを舟で、安全な場所へ運んだんです。』
男は、すぐ母親を許しました。
『私はここへ来るまで、履物も、食べ物も、服もいただきました。それで、充分です。』
そう言って、その時から男は、そこに王子として住むようになりました。
町中の皆んなに愛されながら…。
知らずにいた母のぬくもりを感じながら…。